K5(けーご)の競輪、自転車談義

人生はそろそろ打鐘周回へ…

トラック日本代表の秘密兵器、いよいよ解禁か

2023年トラック世界選手権で佐藤水菜と内野艶和が使用したバイクが話題になっていたのは記憶に新しい。

独特な形状のフロントフォーク、シートステイ、何より一番に目につくのはドライブトレインが左側についているのです。

※ドライブトレイン(駆動系パーツのこと。クランク、ギア、チェーン)

バイクを見てもブランド名やバイク名はなくカーボン色の黒塗りで纏われている、いかにも謎のバイク感、秘密兵器感がありました。

 

内野艶和 選手

 

日本代表の秘密兵器とも言える新型バイクは巷で騒ついていたが、どこのメディアも報道しなかった。しかしここにきて少しずつ詳細が明るみになってきたのです。

 

V-IZU TCM

その名もV-IZU TCMと呼ぶ。

トラック日本代表の本拠地である静岡県伊豆市の名がつけられていて、Vはおそらく勝利を意味するビクトリーのVではないだろうか。

TCMは製造に関わっている「東レ・カーボンマジック株式会社」の名ではないだろうか。

V-IZU TCM 1

V-IZU TCM 2

TCM1とTCM2と2モデル発表されている。

ハンドルや特徴的であるフロントフォーク、シートステイの形状がそれぞれ違う。

 

V-IZU TCM1

ハンドルは従来の形状に限りなく近い、または同等のものである。フロントフォークやシートステイも2と比較するとそこまで横幅のクリアランスはない。

ケイリンやスプリントなどで使用が予想。短距離モデルと予想

V-IZU TCM2

ハンドルは上部にもポジショニングできるようになっていることと、フロントフォークとシートステイに大幅なクリアランスが設けてある。短距離より空気抵抗の蓄積が顕著であるスクラッチエリミネーションなどの中長距離モデルと予想。

 

www.synergy-planning.com

イオニアは英国のLOTUSとHOPE

実はV-IZUより先にこの革新的な形状を取り入れた国とブランドがあるのです。

イギリスの自動車メーカーLOTUSと自転車コンポーネントメーカーのHOPEが協力してできたHB.Tというバイク。

 

2021年に開催された東京オリンピックで既に実戦投入されていて、ここから各国、各メーカーがこぞって研究、開発に着手したのである。日本もそのうちの一つだ。

フロントフォーク シートステイ

従来の空気抵抗削減の常識は”低く、細く”であったのに対し、見てわかる通り大幅なクリアランスを設け横幅な設計になっているのである。

選手の脚は常に動いているので、脚周りには常に空気の乱れが発生していて、これが大きな空気抵抗を生んでいます。この空気抵抗を横幅なフロントフォークとシートステイに空気を整流するそう。

従来はバイクのみのエアロダイナミクスで設計されていることが多かったのに対し、乗車している選手込みのトータルエアロダイナミクスで設計されているのです。

左側についたドライブトレイン

トラック競技では左周回なので外側(つまり自転車右側)の空気抵抗が大きくなるわけです。この空気抵抗を低減するためにドライブトレインを左側につけたとみられています。しかしメリットだけではなく左側につけるデメリットももちろんあるわけですが、これに関してはまだわかっておらず、他社で左側についているところはありません。

東レカーボンマジック社

これだけの大胆かつ大幅な仕様の変更についてはしっかりと専門的な実験や解析を繰り返してたどり着いた答えの一つだといいます。

東レ・カーボンマジック社の前身は童夢カーボンマジックという会社であり、レーシングスポーツ界隈では有名でした。

世界のカーボン市場70%は日本

東レの100%子会社化になり更なる研究を開始したわけですが、親会社である東レはカーボンの世界シェア40%越え、日本ということになるとそのシェアは70%にまでのぼります。材料となるカーボンを試せるというだけで各国に比べ大きなアドバンテージと言って良いでしょう。

童夢時代に培ったレーシングスポーツのノウハウをもとにカーボンの成形技術とエアロダイナミクスを活用さし、パリオリンピック2024に向けてトラック日本代表にも東レ・カーボンマジックが選ばれたという訳です。

www.carbonmagic.com 

JKAの補助事業

とはいえ研究開発には莫大な資金が必要なわけであり、資金があればあるだけより良い開発ができるというものです。会社案内を見ると東レ・カーボンマジックは公益財団法人JKAからの補助を受け、世界一を目指すトラックバイクを開発しております。とある。金額にして約1億3500万円。我々競輪ファンのハズレ車券はハズレではないのです!!

自転車の難しさ

東レ・カーボンマジックの技術を活かしたフレームがすごいことは十分に伝わったが、気になることもある。

”自転車”としてどうなのかということだ。データ上で良い数値が出たからといって必ずしも選手の力を最大限引き出せるわけでもない。レーシングスポーツと違い、エンジンがヒトであるからだ。ここが自転車の奥深さでもある。

自転車製造の歴史が浅い分、選手からのフィードバック数の蓄積が少ないのが東レ・カーボンマジック懸念点ではないだろうか。選手ファーストであってほしい。

TOKYO2020ではブリヂストン社製

気になるのは11月開催のジャパントラックカップでは佐藤水菜も内野艶和もブリヂストンを使用していた。ナショナルチームとしての出場ではないからかもしれない。そこまで気にすることではないと言えばそうなのかもしれないが、ブリヂストンには選手と共に自転車づくりをしてきた歴史があり、2021年の東京オリンピックではブリヂストンがトラックバイク開発した経緯がある。

ブリヂストンは独自の解析システム PROFORMAT を使用し、自転車に取り付けたセンサーで、自転車の挙動などの様々なデータを収集します。そして、それをもとに自転車の走行シミュレーションを行い、より推進力を発揮する自転車の設計要素を導き出しました。

またプロサイクルチームを所有していることもあり、選手からのフィードバックを一番に聞けるのも強みであった。

沈黙のスペシャライズド

各国、各社がこぞってイギリスの後追い、開発を進めているのに対し、世界のスペシャライズドがトラックバイクには何も情報がないのが気になるところである。考えられる理由はいくつかあるが。

アメリカではトラック競技よりMTBグラベル系が盛んであるということやスペシャライズドはトラックバイクよりロードバイクの研究や開発に余念がなく、毎年のように新型発表してくる勢いである。

考えられるのはTTバイクとしてV-IZUのようなフロントフォークやシートステイを参考にしてくる可能性は十分にあるので注目しておこう。

自転車王国日本は世界制覇できる

世界のスペシャライズドに引けを取らない日本の開発力。我が国日本は自転車製造として世界で他を寄せ付けないほどのトップ企業がいくつもあるのです。シマノブリヂストン東レなど。日本を代表する企業が力を合わせれば世界を席巻できるようなバイクを作れるはずだ。

以前、日本の東洋フレームがあのスペシャライズドのフレームを製造していた歴史があり、スペシャライズドはメイドインジャパンだった時代があるくらい。

日本は自国を卑下することが多いですが、ここはあえて言わせてもらうと世界で1番良い自転車を作れる国は日本なのです。

オリンピックは選手だけの戦いではなく、その国を代表するような企業の技術や研究の成果が見える大会でもあります。

V-IZUはその一つであり、パリオリンピックを確実におもしろくしてくれる要素の一つでしょう。日本の世界一はすぐそこまで来ている。